いもむしのはなし 後編
そう言えば今までも少しずつ伸びていってたけど、気付かないうちに小さな脱皮殻をその辺に残していたのかもしれない。
ちゃんと脱皮殻を見たのはこれが初めてだ。
それからは異様な食欲で葉っぱを食い始め
めちゃくちゃ伸びた。
色も心なしか薄い。
そしてこの頃にはいもむしを触る事に対して抵抗が無くなっていた。
大きさ的に潰してしまう不安が減ったせいもあるかもしれないが。
いもむしはすべすべしてひんやりとしてとても気持ち良かった。
足で掴まれる感覚がクセになりそうだ。
あげる葉っぱもプランターのバジルでは足りなくなり、白菜をあげ始めた。
基本は卵を産みつけられた葉っぱで育てなければいけないが、このいもむし(ヨトウムシ)は畑でよく見られる害虫の一種で何でも食べるのでスーパーに行けば餌には困らなかった。
ただ農薬が不安なので、農家直送エリア(虫がよく付いてる)にある白菜を買って、尚且つ中心付近の葉っぱをよく洗ってあげた。
白菜を食べるとフンの色が黄色になり片付けがしやすくなった。
こんな感じで綿棒のケースに排水溝ネットを被せて飼育していたが、ある日窓際に置いて仕事に行き、帰ってくると姿が消えていた。
「ヨトウムシは夜行性で土に潜る」とあったので土の中に居るのかと思いすぐには探さなかった。
この子は一度も潜ったことがなかったけど、やっと成長して潜るようになったのかーなんて呑気に構えてた。
それでもなんだか不安になり土をひっくり返すとなんと居ない。
慌ててさっきまで置いていた窓際を探し回ると、窓と窓のサンの間の小さな隙間に落っこちていた。
うっかり気付かずに窓を開けていたら即死、それでなくとも外の気温が直に伝わる金属の冷たさは結構なもので、一晩放置したら死んでいたかもしれない。
体が大きくなって排水溝ネットのゴムを押し退けて出られてしまったんだ、可哀想な事したなと反省。
こうなった。
キンキンに冷えてしまったいもむしが心配で心配で手に乗せてストーブであっためたりしてた。
何度も手に乗せるうちに、最初は硬直して置物みたいになってたいもむしは慣れて歩き回るようになった。
そしてわたしをエサと思ったのかシャリシャリとかじってくるようになった。
葉っぱを与えるとよく食べる。
この頃が1番可愛くて、愛おしくて、撫でたりしながらしょっちゅう触っていた。
そしてある日、いもむしは土に潜った。
さなぎのはなしへ続く。