いもむしのはなし
知ってる人は知っているけれど、いもむしを飼っていた。
飼っていたものはもういもむしでは無くなってしまったし、飼いたくて飼ったわけでもなかった。
それでも、毎日この子のことを考えるくらいには、印象に残る出会いだった。
出会いは11月15日。
少し寒くなってきて、ベランダで栽培していたバジルを部屋の中に入れた。
本当は冬は枯れてしまうのだけど、室内なら越冬できるかの実験だった。
水をやっている時に葉にいもむしがついているのを見つけて時が止まった後、軽く絶望した。
昔からいもむしが大の苦手だったから。
なんとなく殺したくなくて、ケースに移した。
野菜についてきた奴等はゴミ箱に入れてきたのにな。
何でかと問われても「自分で手にかけたくなかった」という類の感情だったとしか言えない。
あと少しだけ、縁を感じた。
地面から離れたアパートのベランダにほんの少しだけ存在したこの緑を、よく見つけたなあという不思議な関心があった。
いもむしを育てるのは簡単だった。
葉っぱを入れておけば無限に食べた。
ただわたしの心中が穏やかではなかった。
暑く無いか、寒く無いか、空気が悪く無いか、殺虫成分のある物体は近くに無いか、葉っぱに殺虫剤がついて無いか、もし寄生虫が出てたら…
毎日起きていもむしが生きてるのを見る度にホッとして仕事に行った。
いつも覚悟はしていた。
まだ触りたくはなかったし、正直気持ち悪くて少し嫌だったけど、命に対する愛情は芽生えていた。
ある日いもむしが全く動かなくなった。
調べたら葉っぱが萎びてると食べないとあったので、新鮮なものに変えたが食べない。鼻先に持っていっても食べない。
もう死んじゃうのかな…とまた覚悟した。
次の日見るとまだ同じ場所でいもむしは固まっていたが、足元にゴミが落ちていた。
後編へ続く。